iPhone XS、XS Max、XRに加え、新しい11インチと12.9インチのiPadも採用したeSIM。これは、端末内に埋め込まれたSIMカードのことで、ソフトウェアで中身を書き換えられるのが特徴です。iPhoneについては、SIMカードスロットに入れたSIMカードとeSIMで同時に待受けできるDSDSにも対応しています。日本では、iPhone、iPadのeSIMに正式対応したキャリアはまだありませんが、IIJは書き込みの実験に成功。今回は、このニュースをお届けしてきます。

 

GSMA標準に準拠したことで広がりそうなiPhoneのeSIM

 ソフトウェアで書き換え可能なSIMカードには様々なものがあります。代表的なところでは、アップルがiPadに搭載していた「Apple SIM」がありますが、ほかにも、FREETELブランドを継承したMAYA SYSTEMが展開するjetfoneに内蔵されている「クラウドSIM」や、海外渡航用として発売されたH.I.S.モバイルの「変なSIM」など挙げられます。

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Apple SIMもソフトウェアで書き換え可能なSIMカード

 一方で、これらのSIMカードは、いわば独自規格で運用されており、サービス提供者ごとに技術的な差もあります。結果として、たとえばApple SIMの場合、対応しているキャリアは一部にとどまっていました。また、仕様自体がオープンになっていなかったため、アップルとの関係が結べている会社しか、選択することはできません。

 これに対して、新iPhone、新iPadが対応したeSIMは、GSMAの標準に準拠しています。GSMAとは、世界各国のキャリアが加盟する業界団体。キャリア各社が集まって決めた標準のため、実際に世界各国で採用される可能性が高いというわけです。iPhoneやiPadでは、iOS 12.1からこのeSIMに対応し、QRコードを読み取るだけでeSIMへの設定情報を書き込めるようになりました。

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iPhone XS、XS Max、XRはGSMA標準のeSIMに対応しているという

 これを、プロビジョニングといいます。つまり、新iPhone、新iPadはこれをリモートで行う仕組みに対応したということになります。ただし、残念なのは、日本のキャリアが正式に対応を表明していないこと。iPhone XS、XS Max、XR発表時にアップルが紹介したキャリアの中には、ドコモ、au、ソフトバンクの名前はありませんでした。また、格安SIM事業者は、そもそもeSIMへ情報を書き込む設備を大手キャリアから借りていないため、eSIMに対応できません。

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対応キャリアの中に、日本の会社はなかった

IIJがフルMVNOのプラットフォームでeSIMに対応

 ただし、1社のみ、フルMVNOとしてeSIMのプラットフォームまで持った格安SIM事業者があります。それがIIJです。同社はHSS、HLRと呼ばれる加入者管理機能を運用し、独自のSIMカードを発行していますが、この情報をリモートで書き込むためのeSIMプラットフォームを準備しています。実際に実験も進んでおり、マイクロソフトのSurfaceにeSIMの情報を書き込む様子は、すでに公開されています。

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SurfaceのeSIMに書き込まれたIIJの情報

 そのIIJが、iPhoneのeSIMにフルMVNOの情報を書き込めるかどうかをテストしたところ、見事に成功しました。筆者もその様子を取材しましたが、iPhone側からQRコードを読み取るだけで、すぐにIIJのSIMカード情報が読み込まれ、iPhoneがデュアルSIM化しました。

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設定で「モバイル通信プランを追加」を選んでQRコードリーダーを呼び出す

 物理的なSIMカードを2枚挿す中国版のiPhone XS Maxと同様、主回線、副回線を決める画面も出てきます。IIJのフルMVNOには音声通話機能がないため、データ通信側に設定しましたが、仮に音声通話を提供している会社がeSIMを用意すれば、2つの電話番号で待受けできることになります。

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それぞれの回線をどう使うかを設定

 切り替えも簡単で、複数のSIMカード情報を読み込んだ状態なら、使いたいものをタップするだけでOKです。また、アップル側は「DSDS(デュアルSIM/デュアルスタンバイ)」と表記していましたが、筆者は1回線目の物理SIMカードスロットにauのSIMカードを挿し、VoLTEで待受けしていましたが、そのままでもIIJのフルMVNOでデータ通信できました。これは、DSDSと言いつつ、DSDV(デュアルSIM/デュアルVoLTE)対応に近い挙動であるということです。

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IIJのフルMVNO回線が副回線になった

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データ通信しながらVoLTEの着信も

 IIJのeSIMプラットフォームは、GSMA標準に準拠した形で作られていました。アップルとは特に事前の調整などはしていないようですが、ここまであっさりeSIM側にフルMVNOの設定情報を読み込めたのは、まさに標準の力といえるでしょう。

サービス化は現時点では未定だが、今後の展開に期待

 ただし、iPhoneに書き込んだeSIMは、あくまで実証実験の段階のもの。技術的に書き込みが成功したというだけで、即サービス化に至るわけではありません。現状では、どのような料金体系で提供するのかも未定のため、ビジネス条件を整えてからということになりそうです。

 サービス展開のハードルになりそうなのが、eSIMに書き込むために、別のディスプレイが必要なところ。オンラインで契約まではできても、いざiPhoneに読み込む段階になると、iPhone以外の画面にQRコードを表示させなければなりません。つまり、iPhoneだけで契約から書き込みまでが完結しないのです。PCなどを使えばよさそうですが、少しだけ、ハードルは上がってしまいます。

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QRコードの読み込みをどうさせるかが課題

 よりハードルを下げるには、店舗やコンビニなどでQRコードを配るという手もありますが、それだと物理的なSIMカードを配布すると、あまり変わりがありません。コストは下がりそうですが、販路に関しては、オンライン契約より複雑になってしまうのがネックになりそうです。

 アップルが独自で提供していたApple SIMの場合、契約前にどこかのネットワークにローミングで接続してから画面が表示されますが、こうしたことができないのもハードルといえます。あくまで副回線として使うぶんにはいいかもしれませんが、やはり端末さえあればすぐに契約できるApple SIMよりは、少しだけ不便です。

 こうしたビジネス上の課題はありつつも、副回線としてデータ通信だけを提供できれば、面倒なMNPなどの必要なく、データ回線だけをIIJのフルMVNOにすることが可能になります。もちろん、これは物理SIMとDSDS対応のAndroidがあればできたことではありますが、これだけ普及しているiPhoneが対応したインパクトは大きいはずです。今後のサービス展開にも、期待が高まります。

IIJmio(みおふぉん)