FREETELやLINE MOBILEが採用し、一部で話題になっている「カウントフリー」。海外では、こうしたサービスを「ゼロレーティング」と呼びます。特定のアプリやサイトとの通信を無料にするサービスで、お得な半面、MVNOが安易に実施するのは問題も多いといいます。このゼロレーティングについては、IIJmioミーティングで、IIJのネットワーク本部技術企画室 担当課長 佐々木太志氏が解説しました。

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「通信の秘密」侵害で違法にならないために必要なこと

 日本では「通信の秘密」が憲法で保証されています。これを侵害していてはいけないのは、大手キャリアもMVNOも同じ。通信は「個人の生活を支えるもので、誰かにおかれてしまうとプライバシーが危機に瀕してしまう」というのがその理由です。通信の中身を見られていないという保証があるからこそ、ユーザーは気軽に普段のやり取りをできていると言えるでしょう。

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 一方で、通信事業者は「日常的に通信の秘密をおかしている」ともいいます。なぜなら、ユーザーの通信のログを見なければ、どの程度データを使ったのかもカウントできませんし、メールを送ることもできないからです。

 ただ、これを違法だとすると、通信ビジネスがまったく成り立たなくなってしまいます。ユーザーにいくら請求すればいいのかも、ある程度通信を見なければ成立しません。そのため、佐々木氏によると「逮捕されないためのカラクリも用意されている」といいます。

 そのカラクリとは、「正当な業務であること」。上記のように、課金のための情報は通信事業者が知らなければ業務にならないため、「正当業務行為」として違法性がないと見なされています。

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 正当業務行為と考えられないようなケースでは、「個別かつ明確な同意」が必要になります。ユーザーが通信の秘密を侵害されていることを理解し、通信事業者にそれをしてもいいという許可を与えるのが、この個別かつ明確な同意です。そのため、通信事業者がユーザーの通信を何らかの形で見る場合は、「正当業務行為に該当するか、ユーザーの同意を得るかの二択になる」といいます。

ゼロレーティングはなぜOKなのか?

 ゼロレーティングを実施する際も、ユーザーが何のアプリを使い、どこと通信しているのかを通信事業者が確認しています。その通信のカウントをしないためには、通信内容がある程度分からなければならないからです。

 では、この場合は、上に挙げたような「正当業務行為」といえるのでしょうか。佐々木氏は、正当な業務だと見なされるためには、「目的の正当性、行為の必要性、手段の相当性の3つが必要になる」といい、ゼロレーティングの場合はこれに該当しない可能性が高いと見ています。

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 実際、LINE MOBILEに関しても、ゼロレーティングはマーケティング的な側面もあるとして、正当業務行為として片づけるのは難しいと考え、ユーザーの同意をきちんと取ることにしたといいます。佐々木氏のいう3要件でいうと、ゼロレーティングは料金計算のためとは必ずしもいえず、正当性が必ずしも主張できないということになります。

 ただ、MVNOの中には、ユーザーの同意をきちんと取らずにゼロレーティングを後から適用しているケースも見受けられます。おそらくこのような会社は、ゼロレーティングを正当業務行為だと考えているのかもしれません。一方で、上記のような考え方を当てはめた場合、同意を取らずに後からゼロレーティングを始めるのは、黒か黒に近いグレーです。少なくともユーザーに対して不誠実であることは確かでしょう。

ネットワークの中立性の問題もはらむ

 ユーザーから同意を取り、通信の秘密侵害の問題をクリアできたとしても、ネットワーク中立性の観点での問題が残ります。ネットワークの中立性とは、「電気通信事業者はこうあるべきという原理、考え方のようなもの」で、「インターネットはすべてのコンテンツやアプリケーションに対しオープンであるべき」という主張のようなものになります。

 オープンであることで様々なサービスが生まれ、競争が起こり、そのサービス自体がよくなっていくことが期待されているというわけです。あくまで考え方ではありますが、「総務省の有識者会議のログを見ても、一定程度は尊重されている」といいます。ただ、一方で、「法律を見てもインターネットは中立でなければならないというようなものはない」というのも現実です。

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 実際、海外では、ゼロレーティングがネットワークの中立性に反するという声も挙がっています。「電気通信事業者が優遇したアプリは市場支配力が強まるので、その他の事業者からはなぜ優遇するのかという声が出る」ためです。佐々木氏は大手3キャリアが仮に特定のSNSをバラバラに優遇した際のケースを挙げていましたが、それによってコミュニケーションが分断され、利便性が低くなるという懸念もあります。

 厳密に言えば、日本で実施されているゼロレーティングも、このネットワーク中立性に反するサービスです。LINE MOBILEもFREETELも、インターネットのオープン性をゆがめるサービスだと見ることもできるでしょう。とはいえ、先に佐々木氏が述べていたように、法律では特に規制されているわけではなく、「日本では十分な議論がなされてきていない」状況で、ここに関しては、総務省など監督官庁を交えた枠組み作りが待たれるところです。

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 もう1つ、ゼロレーティングに関しては、「利用者間の公平性を阻害するおそれもある」といいます。たとえば、この記事を読むためにデータ通信がカウントされない場合、その費用は一体どこから出ているのでしょうか。誰もその費用を負担しないとき、かかるコストはその回線のユーザー全体に転嫁されていると考えることもできます。この場合、「ゼロレーティングで得をしている人の裏に、損をしている人もいる」ということになります。

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 こうした問題をはらんでいるため、「ゼロレーティングが悪だといいたいわけではないが、センシティブな議論がされてきたもので、いくつかの観点で検討しなければならないことがあり、その考え方をユーザーに説明するのが非常に重要」だといいます。

IIJはゼロレーティングをどうしていくのか

 IIJでは、基本的にゼロレーティングを採用する予定はないそうです。ただ、「仮に採用する場合があったら、皆さんに対して権利がどのくらい侵害されるのか、事前に説明し、個別、明確に同意を取るようにする」といいます。

 ネットワークの中立性に関しても、「これから議論が起きるのであれば、ぜひ参加させていただきたい」と、枠組み作りには積極的に参加していく方針です。

 一方で、IIJはIIJmio以外に、MVNEとして、MVNOを支援しています。代表的なところでは、U-mobileやDMM mobileなどが、IIJの技術でサービスを実現していることを公表しています。こうした企業が、もしゼロレーティングを始めたいと言ったときは、「ご要望があれば相談に応じる」といいます。

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 技術的な支援はもちろんですが、「20数年ビジネスをやる中で、ノウハウや考えもある」といい、ここで挙げたような法律的な議論も共有していく意思があるとのこと。これが実現すれば、IIJのネットワークを使ったゼロレーティングのサービスが始まる可能性もあります。

 

 特定のアプリやサイトとの通信量がカウントされないゼロレーティングは、ユーザーから歓迎される傾向があるものの、通信の秘密やネットワーク中立性の問題もはらんでいるのは事実です。ユーザー側でも、今まで以上に通信事業者に情報を渡している事実はしっかり認識しておいた方がいいでしょう。MVNOの中には、事前にきちんと説明しているとは言いがたい会社もあるため、より積極的な情報開示も求められそうです。